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宇井農場(宇井 宏)・新得町

有機圃場面積:262a 認定団体・認定番号:JASCERT・A01-100204
人参、じゃが芋、大根、白菜、きゃべつ、南瓜、とうきび

みらいすくすく通信第476号・477号で紹介(2020.11)

 東大雪の山々を背景に、どこまでも続く道をタイムマシンのように進んでいくと見えてくる「UI」の農場看板。よく見るとその緑の文字は青虫のイラストのようです。キャベツを作る農家にとって青虫といえば、それこそ収入に関わるほど厄介な存在のはず。そんな青虫がお出迎えというのですから、この農家の姿勢は、なるほど子どもにとっても外国人にとってもすでに一目瞭然。中へ進むと草が短く刈られ陽射しの気持ちいい森に、フクロウの造形物、そして手製のブランコ。こぎれいに手入れされた庭の先には、モンゴル遊牧民の移動式住居、ゲルが見えます。就農時から補修して使われ続ける納屋や住居の前には愛犬(ジーコ)がしっぽを振り、家の中に入ると猫が、そして続けて若い外国人が階段から降りてきました。さまざまなものが存在しながらも自然と一体となっているような、なんとも不思議な空間です。
 宇井さんは千葉県出身、今年65 歳。子どもたちはすでに独立し、今は奥様の茂子さんと二人暮らし。積極的にWWOOF(ウーフ/主に海外からの住み込みボランティア)を受け入れており、先ほどの若い外国人もスロベニアからきたウーファーでした。農場は260アール弱(約160m四方)の広さ。野菜は宮下農場と同じジャガイモ、カボチャ、ニンジン、トウモロコシ、キャベツ、ハクサイ、ダイコン、ソバの8 種でこちらもハウスはなく、春に撒いて収穫は秋だけ。雑草取りと収穫は、機械も使用しますがメインは手作業です。今年はやはり高温による虫の大量発生でキャベツ、ハクサイが減収、ニンジンも例年の1/4 くらいになりそうとのことでした。
 そんな宇井農場のはじまりは、茂子さんと二人、自転車で日本一周の旅へ飛び出したことがきっかけでした。時代は高度成長期の大量生産、大量消費の始まりのさ中。「このまま東京にいても消費するだけ。消費するよりも、生活を作っていきたいと思ったんです。」立ち寄った浜中町の牧場でアルバイトをする中で、初めて農業というものを意識しだし、その後、縁があって新得の農家にたどりつきました。
 「ニワトリ小屋だったところなら住んでもいいよ」この言葉を聞いてそこで農業研修を受け、新規就農を果たしました。電気も水もないその小屋は15 坪(約30 畳)くらいの広さで、明かりはランプを使い、水は地面に深く鉄管を打って汲み上げて得ていたといいます。なんて不便で、なんて過酷な環境と思ってしまいますが、宇井さんにとってそれは、憧れ続けた「自由」の獲得でした。そして宇井さんにはもうひとつ、広げたかった自由の翼があったのです。

ゲルは、夏場の高校生らのファームステイで使用。「ウーの森」と名付けた森では、コープさっぽろ主催の「畑でレストラン」が開催されました
ソバの島立て風景。現在はほとんどがコンバイン収穫、人工乾燥で、畑での完熟、自然乾燥はほとんど見かけなくなりました
カラ竿という棒でソバの実を落とすソバ落とし。貴重な光景が見られました

 宇井さんが新得で広げた自由の翼、それは「音楽」。

 宇井さんの思春期は「豊かな時代」と表される一方、カウンターカルチャー(反発文化)が立ち上がってきた時代でもありました。大量生産、大量消費をある意味で強要する社会から、文化の多様性、反差別、自然保護といった動きが若者から生まれていったのです。宇井さんは当初、レッドツェッペリンやローリングストーンズといった自由なロックミュージックに憧れ、バンド活動を始めていました。ところがその後、カナダのシンガーソングライター、ブルース・コバーンの音楽と出会い、衝撃を受けます。彼は環境問題や人権など、宇井さんが気になり始めたことがらを歌にしていたのです。「自分も社会へのメッセージを歌にのせて発信していきたい。コピーバンドをやってる場合じゃない」
 新得での暮らしは、自由を謳歌すべく、夏は農業、冬は音楽活動。自主制作のCD を作り、イベント出演やミニライブを敢行。かくして、巷ではシンガーソングファーマーと呼ばれ始めます。「たう」というユニットで11 年間活動後、現在もギタリストの西村ヨッシーさんと「青虫ノッポ」というユニットを組んで道内各地でメッセージを発信しています。宇井さんはギター、ハーモニカ(ブルースハープ)、そして鍵盤ではなくボタン式のアコーディオンを駆使します。代表曲「青虫の歌」は、環境に配慮するオーガニックファーマーの気持ちを、温かなメロディにのせ宇井さんの(あま~い!)歌声でユーモラスに唄うものです。
 宇井さんは高校生のファームステイや海外からのWWOOF との対話を重んじます。「若者やウーファーからは潤いと豊かさをもらっています。なんて文化は違うんだろう、なんて人間は同じなんだろう、と。」大量消費の時代を生きてきて、自分たちが感じてきたことをどう次の世代に手渡していくか、それが生きる意味だと言い切ります。
“創造の喜び”
 常識や世間体にとらわれず、自由にイマジネーションを広げ、ゼロから何かを創り出すチカラは、人間にしかできない、人間に与えられた財産。いっぱいお金がなくても、経験がなくても、いやいや電気や水がなくても大丈夫。頼もしい先達が、ここにいるではないですか。無関心に、受動的に生きてはいられなくなった今、私もできることから始めてみよう、宇井さんの野菜、音楽が、そんな思いへと駆り立てます。そして私の創造もまた、次の世代へ手渡していこう。前へ、進もう。

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