みらいすくすく通信第520号で紹介(2021.9)
「当たり前のことをしているだけで、特別なことはしていない。面白い話はないと思うよ(笑)」。こう切り出した早坂さんは神奈川県出身。新規就農しておよそ40年、有機JAS制度が運営される前から農薬、化学肥料に頼らない農業を実践してきたベテラン組です。北海道に憧れ、はじめは酪農を考えていたそうですが、初期投資が多大な酪農に比べ、畑作は土地さえあればということで、周りも作っていたジャガイモから農業をスタートさせました。途中、ダイコンやニンジン、いろんな種類のジャガイモも試しましたが、固めの土質や寒暖差のある気候から今の作付けとなり、ジャガイモは早生(わせ)の男爵が中心です。ジャガイモなどは品種により成育期間の短いものを早生、長いものを奥手(おくて)、その中間を中生(なかて)と分類しています。ここでは、奥手のものは夏の暑い時期に成育途上では病害虫にかかりやすく、また、サヤアカネなどは病気に強くても、休眠期間といって芽を出さない期間が短いため、収穫後、早くから発芽してしまいます。土質の固さから多少でこぼこになるものの、その固さに負けじと旨味を増す男爵に落ち着いたというわけです。
そもそも、有機栽培の基本方針は土のケアのみ。病害虫対策なしで、できる作物や品種を模索し作付けるという流れでやってきました。除草はカルチ(トラクターなどの後方に付ける株間除草機具)と手作業。特に豆類の草取りは広大なため大変で、以前はシルバー人材センターなどに頼んでいたそうですが、最近は高齢化で「シルバーもゴールドになっちゃって(笑)」人がいなく、ご夫婦ふたりの作業で大変とのこと。そして作物を作ったら、お礼として土には堆肥を還すというのが信条。3月、雪の上から鶏糞をまき、早坂農場の1年は始まります。こうしたことが早坂さんのいう「当たり前のこと」であり、さらには有機野菜も特別扱いせずに、当たり前の世の中になればと願っているそうです。
今年はここ美瑛でも約2か月雨のない大干ばつ。もともと野菜はおよそ8割が水分なため、その水分の源がないというのですから収量はおそらく1/2ほど。しかも値の下がる小玉が多いとのこと。ジャガイモは毎年9月に入ってから収穫するそうですが、9月中頃にしてこんなに早く作業が終わったのは初めてだそうです。早坂さんは半地下の貯蔵庫を設けてジャガイモを低定温管理し、供給の減った年明けに出荷できるようにしていますが、毎年満載の貯蔵庫の占有量も今年は半分以下。今年は有機農協への出荷はなくなってしまうかもしれません。それでも「これまでもいろんなことがあったけど好きだから続けてこれた。今年はないんだからどうしようもないよ」と、来季へ向けて前を向いていました。
そろそろ引退期が近くなり、これからはどんどん堆肥を入れ、土をよくして還したいと、堆肥をまく機械を新たに購入したとのこと。「自分がやめた後、ここを誰が使うかはわからないけれど、100年先でも作物がとれる土地として残したいからね」。農薬、化学肥料、そして有機野菜という言葉すらない未来、美瑛の丘では、ジャガイモの花が美しく咲き続けることでしょう。