みらいすくすく通信第515号で紹介(2021・08)
熊倉さんはもともと技術畑の人間。長く土木業界で測量や設計といったものづくりの仕事をしていましたが、「農業という仕事には未来がある!」と閃き、「農業を教えてほしい!」と46歳で知人の農家に飛び込みました。当時、道南ではまだまだ新規就農が少ないこともあり、研修先の地域では、はじめはよそ者扱いされるようなこともあったそうです。それでも作業に一生懸命に臨むことで、地域の人も徐々に受け入れてくれ、野菜作りも技術が上がれば上手にできるんだと、のめり込んでいったといいます。そして、地域の推進する野菜が果菜類ということで、トマトやミニトマトを中心とした農家として、晴れて新規就農を果たします。
就農して数年後、中小企業家同友会の縁で「土についての勉強会」に定例で参加できることになり、ここで有機栽培と出会いました。微生物を活性化することで土が良くなり、作物が良くなるということに、技術屋の性格としては非常に刺激され、早速やってみることにしました。とはいえまだまだ初期投資の返済が残る中、全て有機というのは失敗が怖かったので一部の圃場から始めました。ところが、さぞかし美味しいトマトができることだろうという期待とは裏腹に、1年目、2年目、3年目と「全く美味しくなかった」そうです。奥様はトマトが大の苦手とのことですが、「お願いだから普通のトマトを作って」と、途中諦めかけたときもありました。それが4年目からガラッと変わり、樹も強く、味もとても良くなった
そうです。「これから有機を目指したいという人もけっこう出てきてるんだけど、そう簡単に結果は出ないから、すぐ諦めないでと伝えています」。これまでの土から微生物が豊かな土に変わるのは時間がかかるということを、身をもって体験したのです。トマトが苦手だった奥様も、これなら食べられると、それどころか今では直売所を設けてマルシェ販売を率先して展開する程に。有機栽培への転換の過程でも、いついつのタイミングで虫の発生が多いとか、魚かす系の有機肥料が良いようだなど、品質向上に向けてのさまざまな学びがあったようです。スリップスと呼ばれる微細な虫は、肌理の細かいネットで対応したり工夫もさまざまですが、除草は「そこまで手が回らず、そのまま(笑)」と。今年が有機栽培9年目で自信もつき、全圃場有機栽培になります。「だから皆さんいっぱい食べてください!」とのことでした。
「トマトはやり方で味が全然変わる野菜。有機ということにあぐらをかいて、見た目や味はいまひとつということも良くないのかなと思います」。自分が納得いくまで突き詰めたいという元技術畑の熊倉さんが作る、今後のくまさんファームの野菜をお楽しみに!