みらいすくすく通信第508号で紹介(2021・07)
大塚さんは、先祖が新篠津に1913 年に入植して以来続く、3 代目の農家の家庭に生まれました。幼少期からとにかく社長になる!という高い志があったそうですが、農家を継ぐという思いはなく、むしろ日本の農業者のあり方に疑問をもっていたそうです。「給与や休暇、社会保険などが確立されていない。親族で苦労して疲弊していい家やいいトラクターを揃えたところで、このままではこの先続かないだろう」と。
地元の高校を出た後は社会勉強がてらと道立中央農業試験場へと進みます。期せずしてそこで自ら農薬アレルギーに苦しんだことでオーガニックと出会い、それならば有機農家で社長になろうと、そこから怒涛の“大塚流農業改革” が始まったのです。
大塚さんが取り組んだのは大きく農業者としての地位づくり、仲間づくり、そして仕組みづくりです。地位づくり、仲間づくりとして地元の有志に声をかけ、23 歳にしてオーガニック新篠津(有)を設立し
ます。これからは作るだけではダメ、自分たちで売ることでお客様にはより安く、自分たちにとってはより高く売れると、早くから気づき行動に移します(社長という夢はあっさり叶ってしまいました)。また、障害者の働き場づくり、外国人労働者の受入、研修生や体験学習の受入などに取り組み関わる人を増やしました。「とにかく連携が大切だと思っていたのでたくさんの人を巻き込もうと。今思うと、関わってくれた人からまた広がりができて、僕たちの商品を手にしてくれている。繋がりの大切さを実感しています」。仕組みづくりとしては、オートメーションにできるところはできるだけ機器を採りいれ、適材適所に人材を配置しユニバーサルに誰もが取り組める仕事環境をつくることに努めています。「皆さんイノベーションを期待しますが、基本は手作業が中心。だから自動化できるところは自動化しないと」。
こうした事業の農福連携や6 次化といった経済対策に早くから取り組み、子ども食堂や留学生への食材提供など社会貢献も当たり前に行っています。肩書欄は3社の代表をはじめ、新篠津村の議会議員から子供のPTA会長に至るまでがズラッと並び、活動実績には農林水産大臣賞や日本農業賞大賞などの表彰が列記されています。派手なパフォーマンスはなかなか額面通りに受け取られないこともあるかもしれません。しかしこれら取組の中心にあるのは、農業が人間に大切な食料を供給すると同時に、健康増進・環境保全に最も高く寄与する産業であるととらえる“農業・愛” です。
大塚ファームは先代から数え2013 年で開墾100 年を数え、また次の100 年へ向かっています。これは決して大げさな話題づくりではなく、現在、大塚ファームの商品を買ってくれている人たちの子ども、そして孫の代まで、高品質な有機野菜を提供する責任を果たします、という覚悟を宣言しています。
先日、長男の悠生(ゆうき)君が「高校生が描く明日の農業コンテスト」という作文コンテストで最優秀賞に輝くという報道がありました。3 人の子どもたちが、強制ではなく、純粋に農業者をめざしてい
るという事実そのものが、大塚さんの思いを受け継いでいることを示すとともに、北海道のオーガニックの未来を明るく照らしています。